神話はお好きですか?
古代のスラヴ地域では、ギリシアや北欧のようにアニミズム的要素を持つ多神教が信仰されていました。
しかし、スラヴ民族は10世紀にキリスト教が伝わるまで文字を持っておらず、スラヴ神話についての記録はほとんど残されていません。(スラヴの文字の歴史についてはこちら)
キエフ・ルーシ時代に修道僧ネストルによって書かれた最初の歴史書『原初年代記』や、周辺諸国の記録、英雄叙事詩や民間伝承などの断片的な情報から研究がなされています。
(キエフ・ルーシ = キエフ公国。現在のロシア・ウクライナ・ベラルーシの祖)
【東スラヴの神々】
原初年代記に記されたキリスト教化前のキエフ・ルーシで信じられていた神々をご紹介します。かつてルーシの民は、木の柱で偶像を作り、それらに祈り(時には生贄)をささげていました。
・主神ペルーン

雷・戦の神。空飛ぶ戦車に乗り、雷を落とし、悪を裁く。
原初年代記では、キエフ・ルーシの人々が、戦いの際にペルーンに祈りをささげたことが記録されています。
雷を武器にすることや、攻撃的なキャラクター性から、ローマ神話のユピテル、北欧神話の雷神トールなどとの関連性も考えられています。
キリスト教がロシアに伝わると、預言者エリヤ(火の奇跡を起こし、炎の馬車で生きたまま天に上った)と同一視されることもありました。
・家畜の神ヴォーロス

家畜・豊穣の神。神話ではペルーンのライバルとして登場します。
攻撃的性格の強いペルーンに対し、ヴォーロスは家畜や農業の守り神として民に寄りそう存在でした。
キリスト教が伝わったのちも、農民たちの間で守護神として生き続けました。
原書年代記によれば、上記の2神のほかにも、
太陽神ダジボーグ、風の神ストリボーグ、大地の女神モコシュ などが信仰されていたことが記録されています。キリスト教が国教となったのち、これらの神々の木像はドニエプル川に投げ捨てられました。
しかし、農業や狩猟など自然と共に生きる平民たちの間では、すぐに信仰が消えることはありませんでした。
雷神ペルーンと預言者エリヤに見られたように、キリスト教の人物と古い神々が同一視されることが多々あり、いわゆる神仏習合のような状態が発生しました。
【スラヴの民間信仰】
キリスト教の伝播とともに、次第に古い神々の名は忘れられていきますが、生活に密接に結びついた精霊や、おとぎ話の登場人物は民間信仰の中で生き続けました。
・ダマヴォイ

家の精。暖炉など暖かい場所に住みついています。機嫌が良いうちは住民を守ってくれますが、怒らせると家が火事になるといわれています。人々はダマヴォイの機嫌を損ねないよう、食事の一部をテーブルに残しておきました。
・ヴァジャノイ

水の精(男性)。人間を水に引き込んだりします。一方で貢物などをして機嫌を取ることができれば豊漁をもらたしてくれると言われています。
・ルサールカ

水場で死んだ者の霊(女性限定)。歌や踊りで人間を惹きつけ、水に引き込みます。
・レーシー

森の精。森で人の感覚を狂わせ、森の奥へと誘い込むいたずら者。
・バーバ=ヤーガ

ロシアのおとぎ話には欠かせない魔女のおばあさん。鳥の足が生えた家に住み、箒ではなく臼に乗って移動します。おとぎ話の中では基本的に悪事を働く悪い魔女ですが、主人公を助けてくれるヴァリエーションもあります。
スラヴ地域の古い言い回しや、スラヴをモチーフとした作品などにもよく登場することがあるので、名前を知っておくとより理解が深まりますよ!